株式会社ホコサキ

Coolifyで始めるセルフホストPaaS——VPS1台で脱SaaS

天京祐輔
天京祐輔
Coolifyで始めるセルフホストPaaS——VPS1台で脱SaaS

Herokuが無料枠を廃止したのは2022年のことです。
あの時、「とりあえず無料で動かしていたサービス」を持っていた多くの担当者が、急いで移行先を探しました。
その後継として流れた先がVercelやRenderだったケースも多いと思いますが、使い続けるうちに「なんかじわじわ高くなってきた」と感じはじめている方もいるはずです。

今回取り上げるCoolifyは、そういう 月額コストの重さ に気づきはじめた人たちへの選択肢です。
オープンソースのセルフホストPaaSで、ひとことで言えば「VercelやHerokuと同じような体験を、自分のサーバーで再現できるツール」です。
「セルフホストなんて難しそう」という印象はもっともで、実際にその壁を下げてくれるのがCoolifyの本質です。
何ができて、何が楽になり、どこに注意が要るか——実務判断の視点で整理してみます。

VercelやHerokuの費用が気になりはじめたとき、何が起きているのか

Vercel Proプランは執筆時点で1ユーザーあたり月20ドル、HerokuのStandard-1Xダイノは月25ドルです(どちらも料金体系の改訂が頻繁なので、最新は Vercelの料金ページ などでご確認ください)。
小さなプロジェクトがひとつならまだしも、複数のサービスを並行して動かすようになると、月末の請求画面を見て「あ、そんなに」となる体験をした方もいるのではないでしょうか。

Vercelで特に気をつけたいのが 帯域の従量課金 です。
プランには1TBの帯域が含まれていますが、それを超えると執筆時点で1GBあたり0.15ドルが加算されます。
普段は問題なくても、記事がSNSで拡散した、キャンペーンを打ったというタイミングで、想定外の金額が乗ることがあります。
「使った分だけ払う」従量課金は公平に聞こえますが、予算が読みにくくなるという別のコストを生みます。

費用の話だけではありません。
SaaSのPaaSに依存すると、 ベンダーロック という状況に自然と入り込みます。
デプロイの設定・環境変数・ログの確認方法・ドメインの紐付け方——全部そのサービス固有の画面やルールに最適化されていきます。
「別のサービスに移ろう」となったとき、設定を一から書き直す作業が待っています。
移行コストが高いほど「動いているから変えにくい」という惰性が生まれ、実質的にそのサービスに縛られていくわけです。

データの所在も、見落としがちな論点です。
社内業務ツールや顧客向けサービスのデータが、実際にどのリージョンのどのサーバーに置かれているか——SaaSを使う限り、細かく把握するのは難しいです。
行政や医療・金融に近い業種では、データの保管場所やアクセス権限の管理について厳しい要件がある場合もあります。
「そこまでは気にしなくていい」という規模や業種もありますが、意識しておいて損はない点です。

「でも自分でサーバーを管理するなんて、もっと大変じゃないか」という感覚は、正しいです。
運用コストが逆に増えてしまったら本末転倒ですし、その懸念は払拭せずに持っておいた方がいいです。
その上で、「Coolifyを使う」という選択肢が何を意味するのかを見ていきます。

Coolifyが「やってくれること」——PaaSという概念から理解する

VercelやHerokuが裏側でやっていることを、一度整理してみます。

コードをGitHubにプッシュする——するとビルドが自動で走り、SSL証明書が発行され、ドメインに紐付き、インターネットからアクセスできる状態になります。
サーバーの中を直接触ることなく、コードを渡すだけで動く状態にしてくれる仕組みです。
工場にたとえるなら「材料を渡すと完成品にして届けてくれる工場」です。
コードが材料で、動いているウェブサービスが完成品です。

Coolifyが提供するのは、 その工場ごと自分のサーバーに持ってくること です。
GitHubにプッシュしたら自動デプロイ、Let's Encryptを使ったSSL自動発行、GUIで操作できるダッシュボード——VercelやHerokuが提供していた体験と同じものを、自分で用意したVPS上で動かせます。

Docker Composeで手動構築するのとはどう違うのか

「Docker Composeで自分でアプリを立てている」という方との違いも説明しておきます。
Docker Composeはアプリごとに設定ファイルを書いて、コマンドで起動する方法です。
アプリが1〜2本ならそれで十分ですが、複数サービスを管理するようになるとしんどくなってきます。
設定ファイルが増え、ポートの衝突に気をつかい、SSL証明書の更新を手動で追う——それぞれの作業は決して難しくないですが、束になると負担です。
Coolifyはそういった管理作業をGUIと自動化でまとめて引き受けてくれます。
「アプリを1つずつ手で立てる」のではなく、 デプロイ基盤そのものをセルフホストする という概念の違いです。

Coolifyでデプロイできるものの代表例を挙げます。

  • 静的サイト(各フレームワークのビルド成果物)
  • フルスタックアプリ(Node.js・Python・PHP等のサーバーサイドアプリ)
  • PostgreSQL・MySQL・Redis等のデータベース
  • SupabaseやPlausible Analyticsなどのワンクリックサービス

最後のワンクリックサービスは特に面白い機能で、複雑な設定が必要なOSSをテンプレートから数クリックで起動できます。
本来なら手間のかかるセットアップ作業を、Coolifyがまとめて引き受けてくれます。
「OSSを自前で動かすハードルを下げる」という意味でも、Coolifyの価値は大きいです。

VPSに入れるまでの流れ——「15分で動く」は本当か

Coolifyを動かすための最低スペックは2vCPU・2GBのRAMで、OSはUbuntuが推奨です。
国内外の主要VPSサービスでこのスペックを借りるのは現実的な費用の範囲内です。

ただし「VPSを借りたらすぐ15分でセットアップ完了」というわけではありません。
事前に ドメインとDNS設定 を済ませておく必要があります。
CoolifyのダッシュボードはSSL付きURLでアクセスする設計なので、ドメインが紐づいていないと先に進めません。
「VPS・ドメイン・DNS・ファイアウォールが全部整っていれば15分」というのが正直なところです。

サーバーにSSHでログインしてシステムを最新化したら、まずファイアウォール(UFW)で必要なポートを開けます。

# 必要なポートを開放する
ufw allow 22/tcp    # SSH
ufw allow 80/tcp    # HTTP
ufw allow 443/tcp   # HTTPS
ufw allow 8000/tcp  # Coolifyダッシュボード(初期設定時)
ufw enable

ポートが開いたら、 Coolifyの公式ドキュメント に記載されているインストールスクリプトを1行実行します。
コマンドひとつで、DockerをはじめとするCoolifyの依存関係がまとめてインストールされて起動します。
完了後はブラウザからダッシュボードにアクセスし、初回設定を進めます。

GUIでの初回設定の流れはシンプルです。
アカウントを作成し、GitHubやGitLabといったGitプロバイダーを連携します。
あとはデプロイしたいリポジトリを選んで、ブランチと環境変数を指定すれば、 最初のデプロイが自動で走ります。
Dockerの詳細な知識がなくても、この画面の操作だけで完結します。

「15分で動く」という触れ込みは誇張ではありません。
ただ、初めてVPSを触るという方なら、前提となる準備も含めて最初は2〜3時間を見ておくのが現実的です。
慣れた作業になれば、「VPSを1台借りてCoolifyを立てる」は1時間かからない手順になります。

「自分たちに合うか」——運用の現実と、向く用途・向かない用途

Coolifyが特によく合うのは、複数の小さなサービスやツールを1台のVPSにまとめて管理したい状況です。
社内の業務ツールを何本か動かしている、静的サイトを複数管理している、開発環境と本番環境を分けたい——そういったケースで「1つのダッシュボードで全部見える」という体験は、素直に便利です。

データを自社サーバーに置いておきたいという要件がある場合も、Coolifyは有力な選択肢になります。
SupabaseやPlausible Analyticsを社内でセルフホストすれば、データがどこにあるかを自分で把握できます。
SaaSのブラックボックスにデータを預ける状況から、一歩距離を置けます。

一方で、向かない状況もはっきりあります。
大規模なトラフィックが来るサービス への対応には、1台のVPSは力不足です。
Coolifyは基本的に1台のサーバーを土台にする設計なので、突然のアクセス集中に対応しにくい側面があります。
VercelのようなグローバルCDNと同じ体験を期待すると、ギャップを感じることになります。

もうひとつ、率直に伝えておきたいのが サーバー管理の責任 です。
SaaSのPaaSを使っている間は、OSのアップデート・バックアップ・障害対応はすべて向こうがやってくれていました。
Coolifyに移ると、それらは自分たちの仕事になります。
Coolify自体の定期的なアップデートも必要ですし、データのバックアップ先をどこに置くかも自分で設計しなければなりません。

これは脅しではなく、事実の話です。
「誰かが管理してくれている」状態から「自分たちが管理する」状態への移行なので、その責任を持てるかどうかが判断の分岐点です。
エンジニアが社内にいれば十分対応できる内容ですが、専任不在のまま運用を続けるのはリスクがあります。

だから「SaaSを全部捨てる」という決断をする必要はありません。
現実的な使い方は 用途を選んで併用する ことです。
トラフィックが大きく重要度の高い本番サービスはVercelやRenderに任せながら、社内ツールや開発・検証環境はCoolifyで動かす——そういうハイブリッドな構成は十分に成立します。

まず1台のVPSにCoolifyを入れて、社内の小さなツールを1つ移してみる。
それだけで「自分たちで運用できるか」「何が楽になるか」の感覚が、具体的に掴めます。
理論より、動かしてみることが一番の判断材料になります。


株式会社ホコサキは、山口県宇部市を拠点にWeb制作・業務システム開発・AI活用支援・DX推進に取り組んでいます。
「VPSの準備からCoolifyの初期設定まで一緒に考えたい」「自社のサービス構成に合うか相談したい」という方は、お気軽にご連絡ください。
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