株式会社ホコサキ

議事録AIをクラウドに送らず完結させるMeetilyを試した

天京祐輔
天京祐輔
議事録AIをクラウドに送らず完結させるMeetilyを試した

AI議事録ツールの便利さは、もう疑いようがありません。
録音して数分待てば、要約つきの議事録が手元に届く。
以前なら30分かかっていた作業が、ほぼゼロになる。

ただ、「便利だとわかっているのに、なんとなく踏み切れない」という感覚、ありませんか。
その直感は、けっして的外れではないと思っています。

会議の録音データ、クラウドに送って本当に大丈夫?

Otter.aiやNotta、Microsoft Copilotの会議要約など、主要なAI議事録サービスはほぼすべて クラウド処理型 です。
録音した音声データをインターネット経由で外部のサーバーに送り、そこで文字起こしと要約を行って結果を返してくれる仕組みになっています。

「外部のサーバーに送る」というのが、どういうことか。
会議室で話した内容が、自社のネットワークの外に出ていく、ということです。

たとえば、こんな会議を思い浮かべてください。
役員会での来期の事業方針。
人事評価や査定の話し合い。
顧客から「他言無用で」と前置きされた案件のブリーフィング。
M&Aや事業売却に関わる協議。

これらの会議の録音を、外部サービスに送ることに、どれだけの人が「問題ない」と言い切れるでしょうか。

「有名なサービスだから安全」という感覚は、ある程度理解できます。
ただ、注意が必要なのは、同じサービスでも 無料プランと有料プランでデータポリシーが異なる 場合があることです。
たとえばMicrosoft Copilotは、無料版ではデータが学習に利用される可能性があり、企業の機密情報を入力すべきではないとされています。
一方、Copilot for Microsoft 365のような法人向け有料プランでは、データ保護の扱いが根本的に異なります。
「Microsoftだから安全」ではなく、「どのプランで、どんな契約をしているか」が問題なのです。

NDAを締結している顧客との会議、個人情報が飛び交う人事の場、未公開の経営情報を扱う取締役会。
こうした会議の録音データを外部サービスに送ることは、守秘義務違反や情報漏洩リスクと直結しうる話です。
「使いたいけど踏み切れない」という感覚は、むしろ正しいセンサーが働いている証拠だと思います。

では、録音データを一切外に出さずにAI議事録を作ることはできるのか。
それを実現しようとしているのが、 Meetily というツールです。

Meetilyとは何か――「全部、自分のPCの中で完結する」という設計思想

Meetilyは、Zackriya Solutionsが開発したオープンソースのデスクトップアプリです。
macOSとWindowsに対応したインストーラーが用意されており、アカウント登録は不要。
GitHubで1万以上のスターを獲得しており、プライバシー重視の開発者コミュニティで注目を集めています。

このツールの最大の特徴を一言で言うと、「会議の録音から文字起こし・要約まで、すべてが自分のPC内で完結する」という点です。

仕組みをざっくり説明すると、役割分担は2つに分かれています。

  • 文字起こし係:WhisperまたはParakeetというAIモデルが、録音した音声をテキストに変換する。どちらも自分のPC上で動く。ParakeetはWhisperの約4倍速いとされており、処理の待ち時間を大きく短縮できる
  • まとめ係:Ollamaというソフトウェアが、文字起こしされたテキストを受け取り、要約や議事録の形に整える。これも自分のPC上で動くローカルのAI
  • データの保存先:議事録はローカルのSQLiteデータベースに保存される。外部のクラウドストレージには一切送られない
  • ボットが会議に参加しない:ZoomやGoogle Meetに「録音ボット」が参加するタイプではなく、PCのシステム音声を直接キャプチャする方式。カレンダー連携も不要

ここで一点、重要な注意を地の文で補足しておきます。
Meetilyは要約エンジンとして、OllamaのほかにClaudeやGroqなどのクラウドLLMのAPIキーを設定することもできます。
その場合、文字起こし済みのテキストがそのプロバイダーのサーバーに送信されます。
「完全にローカルで完結させる」には、要約エンジンをOllamaに設定することが条件です。
APIキーを入れると便利になる反面、その瞬間に「クラウドに送らない」という前提が崩れます。
ここは設定画面を開いたときに迷いやすい部分なので、意識して確認してください。

クラウド型サービスと何が違うのか――「精度・手軽さ・コスト・情報管理」で正直に比べる

Otter.aiやNotionAI、Microsoft Copilotの会議要約と比べたとき、Meetilyはどこで勝って、どこで負けているのか。
正直に整理しておきます。

精度 の面では、クラウド型サービスに一日の長があります。
Otter.aiやNottaのような専業サービスは日本語に特化したチューニングが進んでおり、話者の分離(誰がどこで発言したかの識別)も実用レベルに達しています。
Meetilyの日本語精度は、WhisperやParakeetの性能に依存しており、クラウド型ほど洗練されているとは言えません。
話者分離機能については、現時点では 開発中 の段階です。
「誰が言ったか」を自動で整理してほしい場合、今のMeetilyでは対応できません。

手軽さ でも、クラウド型が圧倒的に有利です。
Otter.aiやNotionAIはアカウントを作ればすぐ使い始められます。
Meetilyは、文字起こし自体はインストーラーで動かせますが、要約をローカルで行うにはOllamaを別途インストールして、使いたいAIモデルをダウンロードする必要があります。
「インストーラーがある=誰でもすぐ使える」とはならないのが正直なところです。

コスト については、MeetilyのコミュニティエディションはOSSで無料です。
クラウド型の多くは月額課金が発生し、チームで使う場合はユーザー数に応じてコストが積み上がります。
長期的に使い続けるなら、Meetilyのコスト面での優位性は無視できません。

そして 情報管理
ここだけは、Meetilyに明確な優位性があります。
音声データも文字起こしデータも、すべて自分のPCの中にとどまる。
サービス側のデータポリシーを気にする必要がない。
プランによって扱いが変わることもない。

この4軸を並べると、Meetilyは「精度と手軽さで劣る部分を承知のうえで、情報管理の理由から選ぶ」ツールだとわかります。
逆に言えば、情報管理の優先度が低い会議なら、クラウド型の方がずっと快適に使えます。
「どの会議に使うか」で使い分けるという発想が、現実的な着地点かもしれません。

自社のPCで動くか――動作環境と、セットアップの正直な難易度

MeetilyはmacOSとWindowsに対応しており、それぞれインストーラーが用意されています。
Linuxはソースコードからのビルドが必要で、非エンジニアには現実的ではありません。

動作するかどうかの鍵を握るのが、PCのスペックです。
WhisperやParakeetのような音声認識モデルをローカルで動かすには、それなりの処理能力が必要になります。
GPU(グラフィックカード)が搭載されているPCでは処理が大幅に速くなりますが、一般的なオフィス向けPCにはGPUが搭載されていないことも多いです。

GPUなしのCPUだけの環境でも動作はしますが、文字起こしに時間がかかる可能性があります。
「1時間の会議を録音して、文字起こしが終わるまで数十分待つ」という状況は、業務の流れによっては許容できないこともあるでしょう。
ParakeetモデルはWhisperより高速とされていますが、それでもマシンスペックの影響は受けます。

セットアップの難易度について、正直に言うと「インストーラーはあるが、ゼロ知識で詰まらずに動かせるかは別の話」です。
Meetilyのアプリ本体はインストーラーで入れられますが、ローカル要約のためにOllamaを別途インストールし、使いたいモデルをダウンロードして、Meetilyの設定画面でOllamaのエンドポイントを指定する、という手順が必要です。
PCの操作に慣れた人なら調べながらできる範囲ですが、「ITのことは全員が苦手」という職場では、最初の一歩でつまずく可能性があります。

社内にIT担当者がいる、あるいは少し調べながら設定できる人が一人でもいる環境なら、初期セットアップは乗り越えられるでしょう。
全員が非エンジニアで、誰も面倒を見られる人がいない環境では、導入のハードルはかなり高くなります。
「試してみる担当者を一人決めて、その人が動かせるか確認してから展開する」というステップを踏むのが現実的です。

Meetilyが向いているケース・向いていないケース

ここまでの話を踏まえて、率直に整理します。

Meetilyが 向いているのは、情報管理の優先度が高い場面 です。
弁護士・税理士・社労士などの士業では、顧客との相談内容をNDAや守秘義務の観点からクラウドに送ること自体がアウトになりえます。
医療・介護の現場でも、患者情報が含まれる会議や申し送りをクラウド型で記録することへの抵抗は大きいはずです。
自治体や公的機関で外部サービスへのデータ送信に制約がある場合、製造業の社内会議で技術情報や製品仕様が飛び交う場合も同様です。
役員会・人事評価・M&A協議のように、「内容の性質上、外に出したくない」という会議は、どんな業種にも存在します。
そういった場面で「使える選択肢がなかった」人にとって、Meetilyは現実的な突破口になりえます。

一方で、 向いていないケース もはっきりしています。
話者分離が必須の用途には今のMeetilyは対応できません。
ITに詳しい人が社内に誰もいない環境では、セットアップで詰まる可能性が高いです。
とにかく今すぐ手間なく使い始めたい場合や、手元のPCが数年前の低スペック機である場合も、クラウド型を選んだほうが現実的です。

筆者の率直な評価を言うと、Meetilyは「完璧なツール」ではありません。
日本語精度・話者分離・セットアップの手間、どれをとってもクラウド型の主要サービスに劣る部分があります。

それでも、「クラウドに送れない理由がある」人にとっては、今すぐ試す価値があるツールだと思っています。
ローカルで動くAI議事録という選択肢が、無料で、オープンソースで、インストーラーつきで存在している。
これは数年前には考えられなかった状況です。

情報管理の制約があって踏み切れなかった方は、まず自分のPCで動かしてみるところから始めてみてください。
「使えるかどうか」より「自社の環境で動くかどうか」を確かめるだけでも、判断材料として十分な価値があります。


株式会社ホコサキは、山口県宇部を拠点にAI活用支援やDX推進に取り組んでいます。
「ローカルで完結させたい」「自社の情報管理ポリシーに合うAIツールを選びたい」といった相談も、お気軽にどうぞ。
詳しくは お問い合わせページ からご連絡ください。