株式会社ホコサキ

クラウドに頼れない現場のナレッジ管理にProject NOMADを試してみた

天京祐輔
天京祐輔
クラウドに頼れない現場のナレッジ管理にProject NOMADを試してみた

工場の点検マニュアルや建設現場の施工手順書をデジタル化しようとしたとき、真っ先に当たる壁が「現場のネットが弱い」という問題ですよね。
倉庫の奥や農場のビニールハウスの中、離島の学校の教室——こういった場所では、クラウドツールがそもそも前提にしているインターネット接続が安定しません。

NotionやSharePointを導入したものの、現場スタッフが「ページが開かない」「保存できない」と言い出してすぐ使わなくなった、という話はよく聞きます。
クラウドベースのツールはネットワークがある前提で設計されているので、これは構造的な問題です。
オフラインモードを使えばある程度カバーできますが、事前に同期しておいたページしか見られないため、急な調べ物にはなかなか役立ちません。

もうひとつのハードルが、 情報を社外に出せない という制約です。
製造業の技術仕様、建設会社の施工ノウハウ、農協の栽培データ——こういった情報はクラウドに乗せること自体を避けたいケースが少なくありません。
セキュリティポリシーの問題もありますし、「万が一漏れたら」という経営者の心理的なハードルも現実としてあります。

費用面も悩みどころです。
Notionは1ユーザーあたり月1,650円〜、Confluenceは744円〜という水準で、10名のチームで使うと毎月数千円から1万円以上のランニングコストがかかります。
地方の中小企業にとって、使い続けるかどうか分からないツールにこれだけ払い続けるのは、決して気軽な選択ではありませんよね。

こういった「オフライン環境・情報管理の制約・コスト」の三重苦に向き合う選択肢として、 Project NOMAD というオープンソースのツールが面白いアプローチを取っています。

Project NOMAD とは——「持ち込める知識の基地」という発想

Project NOMADの正式名称は Node for Offline Media, Archives, and Data
直訳すると「オフラインメディア・アーカイブ・データのためのノード」ですが、もっとシンプルに言うと「インターネットなしで知識が完結するサーバー」です。

Raspberry Piやミニ PCに入れて、現場のLANにつなぐだけで使えるようになります。
ネット接続はセットアップ時のデータ取得だけに使い、稼働後はインターネット不要。
同じLAN上のスマートフォンやタブレットからブラウザで開けるので、現場スタッフがアプリを入れる必要もありません。

中身は複数のツールをDockerでまとめて動かす構成です。
オフラインWikipediaを提供するKiwix、Khan Academyのコースをオフラインで利用できるKolibri、オフライン地図のProtoMaps、そしてローカルAIチャットのOllamaとRAG用のベクターデータベースであるQdrantが同梱されています。
さらに社内メモ機能も含まれているので、自社のマニュアルを書いて保存する場所もひとまとめに用意されています。

NotionやConfluence、SharePointと比べると、共同編集機能や通知・権限管理の細かさでは及ばない部分があります。
ただ「完全オフライン」「ランニングコストゼロ」「社内LAN完結のAI」という三点では、クラウドツールには代えられない強みがあります。
乗り換えというより、「こういう現場に持ち込む専用の基地」として使い分けるのが現実的な見方です。

Project NOMADが刺さるのは、こんな用途です。

  • ネットが不安定な現場でマニュアルを素早く参照したい(工場・倉庫・農場・建設現場など)
  • 社外にデータを出せない業種で社内ナレッジを蓄積・検索したい
  • クラウドツールの月額コストを削減したい、または無料で試したい小規模チーム
  • ローカルAIを試してみたいが、何から手をつければいいか分からない

ハードウェアの選び方とセットアップの流れ

ハードウェアの選択は、 AIチャット機能を使うかどうか で判断すると迷いにくいです。

Wikipediaや社内マニュアルの閲覧が中心なら、Raspberry Pi 4または5で十分対応できます。
ローカルLLM(AIチャット)を本格的に動かしたい場合は、Intel NUC相当のミニPC、メモリ16GB以上が現実的な選択です。
Raspberry Pi 5(4GB)でも小型のAIモデルは動作実績がありますが、応答に時間がかかる場面があることは知っておいたほうがいいでしょう。

ストレージについては、公式サイトによるとWikipediaの要約版・地図1リージョン・AIモデル2本を含むテスト環境で30GB未満の実績があります。
手持ちの外付けSSDや大容量のSDカードで十分まかなえる規模感です。

セットアップは、インストールスクリプトをcurlで実行するところから始まります。

curl -fsSL https://projectnomad.us/install | bash

(正確なコマンドはインストール時に公式サイト projectnomad.us/install で確認してください)

これを実行すると、Docker環境の構築からコンポーネントのダウンロード・起動まで、インストーラーがひとまとめに処理してくれます。
完了すると、以下のURLからブラウザでアクセスできるようになります。

# 設置したマシン自身からアクセスする場合
http://localhost:8080

# 同じLAN上の別のデバイスからアクセスする場合
http://[マシンのIPアドレス]:8080

ブラウザを開くと「Command Center」という管理画面が表示されます。
ここで「Easy Setup」を選ぶと、取り込むコンテンツをチェックリスト形式で選べます。
Wikipediaのどのエリアのデータを取得するか、Khan Academyのどのコースを使うか、地図はどのリージョンかといった項目を一つひとつ選んでいく流れです。
ダウンロードには時間がかかるため、最初は必要最低限のコンテンツだけ選ぶのが賢明です。
公式サイトの案内によると、セットアップ全体はダウンロード込みで1時間程度で完了します。

社内マニュアルの追加は、メモ機能を使って直接書き込むか、PDFなどのファイルをRAG用データとして取り込む形で行います。
「Wikipediaを置いたサーバー」で終わらせず、 自社のナレッジを乗せる ところまで進めることが、NOMADを業務に役立てる核心です。

ローカル AI に社内文書を読ませるとどうなるか

ChatGPTのようなクラウドAIと何が違うのか、という疑問が出てくると思います。
クラウドAIに質問するとき、入力したテキストはインターネットを通じてサービス会社のサーバーに送られます。
NOMADのローカルAIはデータが一切外に出ません。
マシンの中で処理が完結するので、どんな社内文書を読ませても、情報が外部に流れることがない設計です。

RAG(Retrieval-Augmented Generation)という仕組みを使って、社内のマニュアルや手順書をAIが参照しながら回答する構成になっています。
難しく聞こえますが、要するに 「AIが社内文書を手元に置いて答える」 状態を作る仕組みです。
検索エンジンがウェブページを引っ張ってきてから内容を表示するように、AIが社内文書の中から関連箇所を見つけて、それをもとに答えてくれます。

現場でのイメージはこんな感じです。
設備のトラブルが起きたとき「この機械のエラーコードE-05の対処手順は?」と入力すると、社内のトラブルシューティングマニュアルから該当箇所を探して答えてくれます。
新人スタッフが「入荷検品の手順を教えて」と聞けば、登録してある作業マニュアルをもとに説明してくれます。
ベテランの経験知をマニュアル化してRAGに取り込んでおけば、「あの人がいないと分からない」という属人化を少しずつ解消していける可能性があります。

正直なところ、Raspberry Pi 5で動かした場合の応答速度は、ChatGPTのような快適さとは異なります。
ただ「社外にデータを出せない」という制約がある業種では、速度より情報管理のほうが優先されるケースも多いはずです。
ローカルAIはハードウェアのグレードを上げれば後から強化できる部分でもあるので、最初から完璧な環境を目指す必要はありません。

現場に持ち込む前に知っておきたいこと——向く現場・向かない現場

正直なところ、Project NOMADにはいくつかのハードルがあります。
知っておかないと「話が違う」となりやすい部分なので、先に整理しておきます。

まず、 認証機能がありません
これは社内ネットワークに閉じる前提の設計上の特性で、同じLAN上の人なら誰でもアクセスできます。
社内LANに閉じて使うぶんには運用上問題になりにくいですが、インターネット側から到達できる環境に設置するのは向いていません。

初期セットアップはターミナル(コマンド画面)の操作が必要です。
DX担当者やITが得意なスタッフが一人いれば対応できますが、全員PCに不慣れな環境では詰まりやすいです。
社内に頼める人がいない場合は、IT支援を受けながら設置するのが無難です。

メンテナンスについては、一度起動してしまえば日常的な操作はほぼ不要です。
現場スタッフへの説明は「ブラウザでURLを開くだけ」という入口のシンプルさが助かります。
アプリのインストールが不要なので、スマートフォンやタブレットからすぐ使えます。

向いている現場を一言で言うなら、「ネットに頼れない」「情報を外に出せない」「コストを抑えたい」の三つのうち一つでも当てはまれば試す価値があります。
逆に、複数拠点からリアルタイムで同じドキュメントを共同編集したい場合や、出先のスマートフォンからも常時アクセスしたい場合は、クラウドツールのほうが素直に合っています。

「まずWikipediaと社内マニュアルだけで小さく始めて、AIは後から追加する」という順番が、失敗しない進め方だと思います。
1台のミニPCにインストールして、マニュアルを数本乗せてみるだけでも「あれどこに書いてあったっけ?」という現場の時間は減らせるはずです。
Project NOMADは無料のオープンソースプロジェクトなので、ハードウェアの初期投資さえ用意できれば、費用リスクなしに試せます。


株式会社ホコサキは山口県宇部を拠点に、Web制作・業務システム開発・AI活用支援・DX推進に取り組んでいます。
「ローカルAIを現場に入れてみたいが最初の一歩が分からない」「オフラインで使えるナレッジ管理の仕組みを相談したい」といったご相談も歓迎しています。
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