
ExcelのIT資産台帳、気がつくと誰も信用しなくなっている、というのはよくある話です。
最初は丁寧に作ったはずのシートが、半年もすると「最新版はどれ?」状態になる。
貸出中のPCを探すと、台帳には「在庫あり」と書いてあるのに実物がない。
ライセンスの残数も、購入時に記録した数字がそのまま残っているだけで、実際に何本使っているかは誰も把握していない。
こういう状態、心当たりありませんか。
「有料のIT資産管理SaaSを入れるほどの規模でもないし、予算もない。でもこのままExcelで管理し続けるのも、そろそろ限界かな」という温度感の担当者が、今回の想定読者です。
そこで試してみたのが Snipe-IT というOSSです。
Dockerさえ入っていれば手元のPCで動かせて、ライセンス費用はゼロ。
「Snipe-ITに移行すれば全部解決」という話はしません。
「どこまでは楽になって、どこからは自分で工夫が要るか」という正直な評価を、実際に動かしてみた体験をもとに書きます。
ExcelのIT資産台帳、どこから崩れ始めるか
Excel管理の崩れ方には、だいたいパターンがあります。
まず起きるのが「ファイルの分裂」です。
担当者がそれぞれ手元にコピーを持ち始めて、どれが正しいか分からなくなる。
SharePointやGoogle Driveで共有していても、誰かがローカルに落として編集してしまえば同じことです。
次に来るのが「貸出履歴の消滅」です。
PCを誰かに貸したとき、台帳の「使用者」欄を書き換えるだけで終わらせると、前に誰が使っていたかの記録が残りません。
返却されたときも同様で、気づけば「このPCって今どこにあるんだっけ」という状態になります。
そして一番じわじわ効いてくるのが ライセンスの不透明感 です。
OfficeやAdobe製品を何本購入したかは台帳に書いてある。
でも実際に何台にインストールされているかは、誰も確認していない。
監査が来たときに慌てて数えるか、そもそも数えることを諦めるか、どちらかになりがちです。
こうした問題に対して、有料のIT資産管理ツールは確かに強力です。
ただ、台数が30〜50台程度の中小企業にとって、月額数万円のSaaSを契約するのはコストが見合わないケースも多い。
そこで選択肢として浮上するのが、セルフホスト型のOSSです。
Snipe-ITはその代表格で、Dockerで手軽に試せるという点が、他のOSSと比べて敷居が低い理由のひとつです。
Snipe-ITとは何か、Docker Composeで動かすまで
Snipe-ITは Grokability が開発・公開しているオープンソースのIT資産管理ツールです。
Webブラウザからアクセスして使うタイプで、PCやモニター、周辺機器といったハードウェアから、ソフトウェアライセンス、消耗品まで一元管理できます。
UIは英語ベースですが日本語ロケールも用意されており、設定画面から切り替えると主要な項目は日本語で表示されます。
ただし翻訳が不完全な箇所もあって、一部の説明文はそのまま英語だったり、日本語が不自然だったりします。
実用上は問題ない範囲ですが、「完全日本語対応」を期待すると少し戸惑うかもしれません。
Dockerでの起動は、公式リポジトリが提供している docker-compose.yml と .env の2ファイルを使うのが最短ルートです。
作業ディレクトリを作り、この2ファイルを配置して設定を書き換えるだけで、あとは1コマンドで起動できます。
docker compose up -d
.env ファイルで最低限設定が必要な項目は以下です。
# アプリケーションのURL(ブラウザでアクセスするアドレス)
APP_URL=http://localhost:8000
# アプリケーションキー(必ず生成して設定する)
APP_KEY=base64:xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx
# データベース設定
DB_DATABASE=snipeit
DB_USERNAME=snipeit
DB_PASSWORD=your_password_here
ここで一番詰まりやすいのが APP_KEY の設定忘れ です。
この値を空のまま起動すると、ブラウザで開いたときにエラー画面が出て先に進めません。
公式ドキュメントには生成コマンドが書かれていますが、Dockerコンテナが起動していないと実行できないという順序の問題があります。
実際には、一度コンテナを起動してから appコンテナの中で php artisan key:generate を実行し、出力された値を .env に書き戻して再起動する、という手順になります。
もう一つ引っかかりやすいのが MariaDBの起動タイミング です。
docker-compose.yml には depends_on の設定があり、DBが healthcheck をパスするまでアプリが起動しないよう制御されています。
ただし初回起動時はDBの初期化に少し時間がかかるため、ブラウザでアクセスしても「接続できない」と表示されることがあります。
焦らず1〜2分待ってからリロードすると、たいていセットアップ画面が開きます。
ポート競合も地味に多いトラブルです。
デフォルトでは8000番ポートを使うので、他のアプリが同じポートを使っていると起動しません。
.env の APP_PORT の値を変えるだけで解決するので、エラーが出たらまずここを確認してみてください。
なお、Dockerそのものの解説はここではしません。
「docker compose コマンドが使える状態になっている」という前提で書いています。
Dockerを初めて触る方は、先に基本を確認してから戻ってきてもらえると、手順がスムーズに理解できると思います。
資産登録・QRラベル・ライセンス管理、3つの基本フローを触ってみた
Snipe-ITを使い始めて最初に戸惑うのが、「資産を登録する前にやることがある」という点です。
Excelなら列を追加すれば済む話が、Snipe-ITでは マスタデータを先に整備する という発想に変わります。
これはデータベース型ツールの宿命で、良くも悪くも「構造を先に決める」ことが求められます。
資産を登録するまでの準備ステップはこの順番です。
- カテゴリを作成する(例:ノートPC、モニター、ソフトウェアライセンス)
- ロケーションを作成する(例:本社、倉庫、リモートワーク)
- 担当者(ユーザー)を登録する
- モデルを登録する(メーカー・型番の「型」を先に作る)
- 資産を登録する(モデルにひもづけて個別の機器を登録)
この流れに慣れるまでが、正直一番時間がかかります。
「ThinkPad X1 Carbon を1台登録したい」と思ったとき、まずLenovoというメーカーを登録して、次にThinkPad X1 Carbonというモデルを作って、それから資産を登録する、という3段階が必要です。
最初は「なぜこんなに手順が多いんだ」と感じますが、同じモデルが複数台ある場合にまとめて管理できる、という利点が後から効いてきます。
QRラベルの印刷は、資産一覧画面でチェックを入れてPDF出力するだけです。
A4シートにまとめて出力されるので、市販のラベルシールに印刷して機器に貼ります。
QRコードをスマートフォンで読み取ると、その資産の詳細ページに直接飛べます。
棚卸しのときに「このPCって台帳に載ってる?」と確認する手間が大幅に減るのは、実際に使ってみて素直に便利だと感じた部分です。
一方で、資産が30台以下くらいの規模だと、ラベルを印刷して貼って管理する運用自体が「やや大げさかな」と感じることもあります。
規模感によって、この機能の恩恵は変わってきます。
ライセンス管理は、購入したシート数と現在の使用数を紐づけて管理する仕組みです。
「Office 365を10ライセンス購入、現在8名に割り当て済み、残り2」という状態をシステムが把握してくれます。
有効期限が近づくと、画面上部の旗マークにアラートが表示されます。
メール通知も設定でき、送信先はカンマ区切りで複数指定できるので、担当者が複数いる場合も対応できます。
ただし ライセンスの使用状況は手動で更新する 必要があります。
PCにインストールされているソフトを自動検出する機能はSnipe-IT単体にはないので、「誰かにライセンスを割り当てた」「返却された」という操作を担当者がその都度入力する運用になります。
ここは期待値を調整しておいたほうがいい部分です。
日本語UIについては、全体的には読めるレベルですが、一部の設定項目の説明文が誤訳気味だったり、英語のまま残っていたりします。
デージーネットが公開している日本語マニュアルが補足として役立つので、詰まったときは参照することをおすすめします。
ExcelとSnipe-IT、正直なところどっちがいいか
Snipe-ITを実際に動かしてみて、「楽になった」と感じた部分と「逆に手間が増えた」と感じた部分は、はっきり分かれます。
楽になったのは、まず 貸出・返却の履歴が自動で残る 点です。
Excelでは誰かに貸したとき「使用者」欄を書き換えるだけで、過去の履歴は消えていました。
Snipe-ITでは誰がいつ借りて、いつ返したかが時系列で記録されます。
「このPCって以前誰が使ってたっけ」という問い合わせに、すぐ答えられるようになります。
複数人が同時に参照・更新できる点も地味に効きます。
Excelファイルを誰かが開いていると編集できない、という問題がそもそも起きません。
ライセンスの超過検知も、割り当て数がシート数を超えそうになると画面で警告が出るので、気づかずにオーバーしていた、という状況を防げます。
一方で、手間が増えると感じた部分も正直に書きます。
まず 初期セットアップのコスト は無視できません。
Dockerの起動自体は30分もあれば終わりますが、カテゴリ・ロケーション・モデルといったマスタデータを整備するのに、既存のExcel台帳を見ながら半日〜1日かかる覚悟が必要です。
それから、Dockerホストのメンテ負担も現実として存在します。
OSのアップデート、Snipe-ITのバージョンアップ、DBのバックアップ。
これらを誰かが定期的に面倒を見る必要があります。
SaaSなら気にしなくていいことを、セルフホストでは自分で管理することになります。
「Excelで十分なケース」を正直に言うと、管理する資産が30台以下で、担当者が1人で全部把握できていて、貸出の頻度も月に数回程度、という規模なら、Excelの方がシンプルで速いです。
わざわざDockerを立てて運用する手間をかける必要はないと思います。
逆に、 Snipe-ITに移行する価値がある と感じるのは、こういう状況です。
資産が50台を超えてきた、または今後増える見込みがある。
複数の担当者が台帳を触る必要がある。
ライセンスの棚卸しを年に1回以上やっていて、毎回時間がかかっている。
そして、社内にDockerを動かせる人間が1人でもいる。
この条件が揃っているなら、試してみる価値は十分あります。
「向いている/向いていない」を二択で断定するつもりはありません。
ただ、「Dockerを知っている人がいない」という状況でのセルフホストは、運用が回らなくなるリスクが高いので、そこだけは正直に言っておきます。
試すなら、この順番で
いきなり本番環境に移行しようとするのは、おすすめしません。
まず手元のPCかローカルのVM上でDockerを起動して、実際に触ってみることから始めるのが現実的です。
マスタデータを少量入れてみて、資産登録・貸出・ライセンス割り当てという一連の流れを体験してみると、「自社の運用に合うかどうか」の感触がつかめます。
その次のステップが、既存のExcel台帳を整理してマスタデータに変換する作業です。
ここが一番時間がかかりますが、この作業自体が「台帳の棚卸し」にもなるので、無駄にはなりません。
CSVインポート機能があるので、Excelのデータをある程度そのまま流し込めます。
ただし列の対応関係を合わせる作業は必要なので、一括でそのまま移行できるわけではありません。
本番移行を判断するのは、この2ステップを経てからで十分です。
セキュリティとバックアップについても、最低限触れておきます。
Snipe-ITは社内LAN限定で公開するのが基本です。
インターネットに直接さらす場合はリバースプロキシとHTTPS対応が必要になります。
DBのデータはDockerボリュームに保存されるので、定期的にボリュームをバックアップする仕組みを作っておくことは必須です。
ここを怠ると、コンテナを誤って削除したときに全データが消えます。
Snipe-ITの一番のメリットは、 合わなければ撤退コストがほぼゼロ という点です。
SaaSと違って契約解除の手続きも違約金もなく、Dockerコンテナを止めるだけで終わります。
「試してみて、合わなければやめる」という判断が気軽にできるのは、OSSのセルフホストならではの強みです。
Excelの台帳が少しずつ信頼されなくなってきた、と感じているなら、まず手元で動かしてみるだけでも価値があると思います。
株式会社ホコサキは山口県宇部市を拠点に、Web制作・業務システム開発・AI活用支援・DX推進に取り組んでいます。
Snipe-ITの導入検討や、社内の資産管理・業務効率化について相談したい方は、お気軽にご連絡ください。
お問い合わせはこちら

