株式会社ホコサキ

山口県のAI活用は今どこにいるか。現場から見た現在地と突破口

天京祐輔
天京祐輔
山口県のAI活用は今どこにいるか。現場から見た現在地と突破口

山口県でAI活用を検討しているが、「周りがどこまでやっているのか」がまったく見えない——そんな声を、宇部を拠点とするホコサキはここ数年で何度も聞いてきました。

「うちが遅れているのか、それとも周りも同じなのか」を知りたいだけなのに、その情報すら手に入りにくい。この記事では、公開資料と現場の観察をもとに、山口県のAI活用の現在地を整理します。進んでいること、詰まっていること、そして動き出すための入口まで、できるだけ正直に書きます。

全国と比べて、山口はどこにいるか

結論から言うと、山口県は「遅れているが、特別ではない」という位置にいます。

山口県自身が公開している産業DXプロジェクトの評価資料には、こう書かれています。「県内中小企業のIoT導入率についても全国水準(推計値)に追いつきつつあるものの、まだまだ高いとは言えない」。自己評価としてはかなり正直な表現です。

ただ、これは山口県だけの話ではありません。全国的に見ても、地方の中小企業がDX・AI活用で苦戦しているのは構造的な問題です。

フォレスターのブログが引用した日経BPリサーチの調査によれば、日本企業の約76.8%がDXを推進しているとしながら、実際に成果を出しているのはそのうち約3分の1にとどまるとされています。「取り組んでいる」と「成果が出ている」の間には、大きな溝があるわけです。

山口県の場合、その溝が広がりやすい構造的な背景が3つあります。

1つ目は、情報通信業の事業所比率の低さです。

AI導入を相談しようにも、地域に相談できるIT企業そのものが少ない。宇部で日々感じることですが、「まずどこに聞けばいいかわからない」という声は、努力不足ではなく、相談先の絶対数が少ないという構造から来ています。

2つ目は、産業構造の偏りです。

製造業・建設業・医療福祉といった業種が事業所の多くを占めており、これらはAI活用との距離が遠いとされてきた分野です。もちろん近年は製造現場でのAI活用も進んでいますが、導入の入口が見えにくいのは事実です。

3つ目は、高齢化率の高さです。

山口県の高齢化率は34.3%と全国3位水準にあります(出典:デジタルボーイ掲載データ)。「AIが必要な理由(人手不足・後継者問題)」と「AIを導入しにくい理由(デジタルリテラシーの課題・変化への抵抗感)」が同じ根から生えているという、皮肉な状況です。

遅れているのは事実ですが、それは個々の企業の努力不足ではなく、こうした構造的な背景によるものです。そこを押さえておくと、次の話が変わって見えてきます。

県と民間で実際に動いている取り組み

「支援はあるが知られていない」——これが山口県のAI活用における、もうひとつの現実です。

公的支援の動き

県のデジタル推進の拠点として機能しているのが、Y-BASEと官民連携のデジタルコミュニティデジテック for YAMAGUCHIです。

Y-BASEはDXに関する相談窓口・実証環境・伴走支援を提供しており、市町向けのデジタル・ガバメント専用窓口も設置されています。デジテック for YAMAGUCHIは、地域課題をデジタルで解決することを目指す官民混在のコミュニティで、情報交換や実証の場として機能しています。

2023年10月には、山口県と日本マイクロソフト株式会社が「行政DXの推進に係る包括連携に関する協定」を締結しました。県レベルでのAI・クラウド活用に向けた基盤が整いつつあることを示す動きです。

AI人材育成の面では、株式会社AVILENと一般財団法人山口県デジタル技術振興財団が連携し、「AIトランスフォーメーション人材育成事業」を実施しました。

山口県内の企業・団体・自治体等の職員を対象に、参加費無料で約半年間の実践型プログラムを提供するというもので、受講生からの満足度も高かったと報告されています。「AIを使える人材を育てる」という入口から攻めている点が特徴的です。

行政課題へのAI活用という点では、シビックテック チャレンジ YAMAGUCHIの取り組みが具体的です。

2024年度の採択では、山口県企業局の「工業用水道施設の老朽化対策をAIで効率化する」提案と、山口県警察本部の「交通事故分析にAIを活用する」提案が採択されています。インフラ管理や公共安全という、地方行政が抱えるリアルな課題に対してAIを当てようとしている点は注目に値します。

教育分野でも動きがあります。山口県教育委員会は令和6年度、県内公立中学校7校をモデル校として、生成AIを活用した学習アシスタントアプリの実証を行っています。「直接答えを教えない」設計で、思考力の育成と個別指導の実現を目指すものです。

民間の実践事例

「大企業・製造業だけの話」ではない、という点を示す事例が山口県内にもあります。

山口県内の不動産会社では、物件仕入れ前のエリアリサーチに1物件あたり平均29時間かかっていた作業を、AIによる入居率予測モデルの導入で約4.7時間(84%削減)に短縮しました。

住宅・土地統計調査のデータと決定木を組み合わせたモデルで、「人口4万人未満でも不動産関連事業所が292社超なら入居率90%以上」という、業界20年のベテランも気づかなかったルールを発見したといいます。この成果は令和4年度中小企業経営診断シンポジウムで日刊工業新聞社賞を受賞しています。

山口県内の独立系FP法人では、セミナー集客のためのポスティングの反応率が1,000枚あたり1名と低迷していた課題を、国勢調査・住宅土地統計と顧客データを掛け合わせたモデルで解決しました。

「まんべんなく配布」から「持家比率・世帯年収・高齢者比率が重なるエリアへの集中投下」に転換した結果、反応率が5倍、配布コストは3分の2に削減されています。

宇部商工会議所では、経済センサスのデータと決定木を使い、キャッシュレス化しやすい業種・規模を判別するモデルを構築。会員企業支援の精度向上に活用されています。

これらの事例に共通するのは、「小さなスコープから始めた」という点です。全社的なDX変革ではなく、特定の業務課題に絞ってデータを集め、効果を確認してから広げる。そのアプローチが、地方中小企業でも成果を出せる現実的な道筋を示しています。

地方中小企業がAI活用で詰まる、3つの壁

「やってみたいが動けない」という状態には、たいてい理由があります。山口県の構造的な背景と照らし合わせながら、3つの壁を整理します。

壁①:相談できるIT人材・企業が構造的に少ない

前述の通り、山口県は情報通信業の事業所比率が低い地域です。東京や大阪なら「AIに詳しい会社に声をかける」という選択肢がいくつもありますが、地方ではそもそも選択肢が少ない。

さらに問題なのは、「相談先が少ない」という事実自体が見えにくいことです。「調べてもよくわからない」「問い合わせたら大手SIerに繋がって話が大きくなりすぎた」という経験をした方は少なくないはずです。

これは努力不足ではなく、構造的な問題です。突破口としては、Y-BASEやデジテック for YAMAGUCHIのような公的な相談窓口を入口にすることが現実的です。特定のベンダーに縛られず、中立的な立場で相談に乗ってもらえる場所から始めると、選択肢が広がります。

壁②:費用対効果が見えにくい

AI導入の初期費用は、見積もりを取るまで金額感がつかみにくいという特徴があります。「高そう」という印象だけで検討が止まってしまうケースは多いです。

実際には、IT導入補助金ものづくり補助金を活用することで、初期費用を大幅に圧縮できる場合があります。「補助金があるなら試してみようか」という判断に変わるケースは、現場でも実際に見てきました。

費用対効果の見えにくさについては、前節の不動産会社やFP法人の事例が参考になります。どちらも「まず1つの業務課題に絞って小さく試した」からこそ、効果が数字で見えた。スコープを絞れば、費用も効果も測りやすくなります。

壁③:「何から始めるかわからない」問題

ホコサキが現場で最も多く聞く相談が、これです。「AIを使いたいが、何をすればいいかわからない」。

この状態の多くは、ツール選びより前の段階で詰まっています。どの業務にAIを当てるかが決まっていないまま、ツールを探し始めてしまう。結果として「いろいろ調べたが決められなかった」で終わります。

順序は逆です。まず自社の業務の中で「時間がかかっている作業」「繰り返しが多い作業」「ミスが起きやすい作業」を書き出す。その中から、データが取れているもの・取れそうなものを選ぶ。ツールを選ぶのはその後です。

この「業務の棚卸し」こそが、次のセクションで話す最初の一歩につながります。

今日から動ける、現実的な最初の一歩

「導入を決める前に、まず自社の課題を言語化する」——これが最初の一歩です。大げさなことではなく、1時間もあればできます。

まず:自社業務の「時間泥棒」を書き出す

週に何時間も使っているのに、誰も疑問を持っていない作業はどこにありますか。データ入力、報告書の作成、問い合わせ対応、在庫確認——そういった作業を書き出すだけで、AIが効きそうな場所が見えてきます。

「うちにはデータがない」と思っている方も多いですが、Excelの台帳、顧客の住所リスト、過去の売上記録——これらはすでに「データ」です。棚卸しをしてみると、意外と素材はあることに気づきます。

付箋とホワイトボードでも、スプレッドシートでも構いません。「どこに時間が消えているか」を言語化するだけで、相談の質が劇的に上がります。

次に:無料の相談窓口を使う

書き出した課題を持って相談窓口に行くのが次のステップです。「まだ何も決まっていない」段階で行くのが、むしろ正解です。

山口県内で使える主な窓口を整理しておきます。

  • Y-BASE(山口県デジタル政策課):DXに関する相談窓口・実証環境・伴走支援を提供。「何から始めればいいかわからない」という段階から受け付けてもらえます。
  • デジテック for YAMAGUCHI:官民連携のデジタルコミュニティ。会員登録すると情報収集・交流の場として活用でき、同じ課題を持つ県内企業とのつながりも生まれます。
  • 地元の商工会議所・商工会:中小企業診断士や専門家派遣制度を持つ窓口も多く、業種に近い目線で課題整理を手伝ってもらえます。

これらの窓口は、特定のツールやベンダーに誘導するためではなく、課題整理の段階から相談に乗ってもらえる場所です。

並行して:補助金の活用可能性を確認する

IT導入補助金(中小企業・小規模事業者向け、ソフトウェア導入費用の補助)やものづくり補助金(設備・システム導入の補助)は、AI関連の導入費用にも活用できる場合があります。

公募時期や要件は年度ごとに変わるため、山口県AI・DXナビ や各補助金の公式サイトで最新情報を確認してください。

補助金は「費用の壁を下げる手段」であって、目的ではありません。課題が明確になってから補助金を探す順序が、結果的に申請もスムーズです。

心構え:小さく試して、確認してから広げる

前述の不動産会社もFP法人も、最初から全社展開を目指したわけではありません。「この業務だけ試してみる」という小さなスコープで始め、効果が数字で見えてから広げた。

山口県のAI活用は、全国と比べれば遅れているかもしれません。でも「動いている会社はある」し、「支援の仕組みも整いつつある」のは事実です。最初の一歩は、思っているより小さくて構いません。


株式会社ホコサキは、山口県宇部市を拠点に、中小企業・自治体のAI活用・DX推進・業務システム開発を支援しています。「何から始めればいいかわからない」という段階からでも、一緒に考えます。お気軽に お問い合わせ ください。